MANX GRANG PRIX 2007 --3-- 27/Aug/2007 |
8月27日(月) 5日目 最高と、最悪の瞬間。 |
![]() 若そうで、いかにも繁忙期のみのバイトといった風情の若者にその事を伝えると「えーあーうー。ゴモゴモ。」と調子が出ないキャブレターみたいだ。「僕には分からないから、取り合えず駄目。」なんておバカな答えで俺の朝飯がお預けになってしまうかもと、日本ではあり得ない対応の悪さを覚悟しているところにボスらしき女性が登場。理由を説明すると威勢良く一言「あぁ、食べなさいな。」と。「へ、タダでいいのか?」とその懐の深い姉さんに感謝して席に着く。すぐに他のスタッフがプレートをセットしてくれたので、しめしめと無料ブレイク・ファストをタラフクいただく。(画像はよそ様からのものです。)バイキング形式とはいえ、ここは英国。 ![]() ![]() |
![]() まぁまぁ、まずはレースを見に行こう。GSOC(BSA GOLD STAR OWNERS CLUB)のマルコム、ロンとDB NORIでレース観戦へ。彼らはマン島の常連なので、彼らに任せてただ付いていく。既にロードがクローズされているので、回り道をしつつ、ダグラスの近くまでやって来た。ここは、Braddan Bridge(ブラダン・ブリッジ)と呼ばれる場所(マップ★B)で、通称「Zコーナー」と言うんだそうだ。有料の観戦ポイントに言われるがまま付いていき、4ポンドを支払い席を取る。曇りで、少し肌寒い。時折ピリピリ雨がぱらつく嫌な天気だ。DB NORIとティーストールで紅茶を買った、が、最高に不味い。水に妙な金属臭がして気持ち悪い。DB NORIが「こっちの水って一日置いておくと不味くなんだよなー。」と言っていたのはこの事か!? それとも保存に使う容器の問題か。んー、テンション下がるなぁと思っていると誰のラジオからかレース開始のアナウンスが聞こえてくる。マルコムが「グランドスタンドからここまではほんの数分だから、すぐに来るぞ。」と教えてくれた時には既に排気音が聞こえてきた!!席からは丁度Zコーナーが丸見えで、直進してきたレーサーが、左、そしてすぐに右に切り替える様が綺麗に見える。このレースはNew Comer(新人)のレースで、モダンなマシーンばかりだ。何だか切り替えしが遅いんじゃないの?なんて調子にのった事まで思う始末。(しかし、後日、夜間走行中にこのカーブの恐ろしさを知り、この舐めた発言は完全撤回・・・) このレース「New Comers Race」(ニューカマーズ・レース)は他のレースと同様にコースを4ラップ(242,8km)する。赤いゼッケンに白いナンバーがニューカマーの目印で、プラクティスも彼らのために別枠が設けられている。2つクラスがあり、クラスAはYamaha R6 600cc, Suzuki GSXR 750cc, Honda CBR RR 600cc, Kawasaki ZX6R 600ccなどなど。クラスCはYamaha FZR 398cc, Honada RVF400cc, Kawasaki AXR 400ccなどが主な出場車で、日本車一色となっている。 |
![]() ロンが走るがままに、彼の後ろをDB NORIと共に集合地点である St John'sエリアのBallacraine(バラクレーン)へと向かう。(マップ★BL)脇道を入ると砂利の大きな広場があり、数百台のクラシックバイクがラリーのために既に集合している。スタッフに誘導されて進んで行くと、そのままマシンのスクータニアリング(検査)を受けるようになっていた。適当に流していくのかと思いきや、各部に変なガタが無いか、フロントフォークの動きなどもチェックしている。DB NORIはすんなりパス。いよいよ自分の番がやって来た、という時にスタッフが他のスタッフとこそこそ話をしていたため何か疑わしい箇所があるのか!?と焦ったが、ハンバーガーを頼んでいただけだった。自分も無事にパスし、次は用紙を渡されてサイン。「死んでも転んでも自分の責任であり、クラブは関係ありません。」と言った旨のものだ。 ![]() VMCCのスタッフにDB NORIと自分が呼ばれた。これからアナウンスするパレードのルール、注意事項を聞くだけだと不安かもしれないので、念のため事前に読んでおいてくれ、という事だった。パレード中は基本的に左車線を走り、右は追い越し車線。追い越しは絶対に右側より。マーシャルが所々に走っているので、彼らの指示に(スピード落とせなど)気をつけるように、などなど。ふいに「お前のヘルメットは基準を満たしてるのか?」と尋ねられて肝を冷やしたが、「YES!!」と咄嗟に答えるとそれ以上突っ込まれなかった。が「60年代当時の基準ですが。」と聞こえないようにボソッと付け足しておいた。気になっていたボトムスもひざ辺りに入っている切り替え線がパッド入りにでも見えたのか、お咎め無しで後は走るのみとなった。 ![]() 4ラップの内、3ラップを見た所で集合時間が迫ってきたので先ほどの場所へ戻る。もう少しはゆとりがあるようだったので、ティーストールでお決まりのぬるいバーガーを買い、急いで腹ごなし。いよいよ出発のアナウンスが入り、一斉にエンジンがかかる。戦前のマシンから70年代までの数百台のエンジンに火が入ると辺りはそれまでのほのぼのした雰囲気が消され、空気が大きく振動する程に排気音が重なる。まずは出発地点まで移動するだけの短い距離だったが、その一員になっているという事だけでも興奮する。2列縦隊に編成され、出発を待つ。その時、DB NORIがプラグの焼けをチェックしようと、マシンから降りてツールボックスをゴソゴソしていると、危うく日本から運んだ愛車が倒れそうになり周りの度肝を抜いた!! サイドスタンドが不安定で、「グラリ!」と傾いた時は何人かが驚いて支えようとしたほどで「OH!!!!!!!!」と驚きと安堵の歓声が辺りから聞こえてきた。ここでも人気者のDB NORI!? ![]() シャロンが言っていた言葉をふと思い出す。「地球には「レイライン」と呼ばれる線が走っていて、そのライン上にストーンヘンジが存在する。マン島もその場所の一つなのよ。」と。そんな不思議なパワーがある場所ゆえ、何故か引き寄せられて、懐かしくも思ってしまうんだろうか。親しみのある感動。こんな辺鄙な島で百年もレースが続くのは何故なんだろうか。選ばれた場所。 前方を走るマーシャルが左車線にいる時は抜かしていいのだと解釈し、アクセルを一気に開ける。そういえば、マン島コースのこの部分はまだ走っていなかったので、ラムゼイまでのこのパレードでやっと、トータルで一周を走った事になる。木々に囲まれたアップダウンのある走りやすいコースで幾台も抜き去っていく。好き放題に車線を使える快感!! ある箇所で前を走るマーシャルが「スピードを下げろ」と指示していたので、それに習う。すると、すぐにジャンプスポットで有名な、かの「Ballaugh Bridge」(バラフ・ブリッジ)にさしかかり軽く飛び上がる。その小さな橋を超えるとすぐに急な右カーブと続くため、オーバースピードで入るとかなり危険な箇所だ。もしその指示が無かったら、と思うとぞっとする。コース各所の観戦ポイントでは観客がこのパレードを見物していて、自分があたかもレーサーになったように錯覚する。もしワンピース・スーツ(革つなぎ)なんて着ていると尚更だろうな。前方にDB NORIの姿が見えた。左車線でその時はのんびり走っているようだったので、ゆっくり走っている今がチャン ![]() 終わってみれば、これは「パレード」という柔和な響きのものではなく、DB NORIの言葉を借りれば「Almost Racing」(ほぼレース)だった。そんなパレードを走り終えた車両が「Mooragh Park」(ムーラパーク)という、湖がある場所に続々と再集結してくる。まだ感動と興奮の余韻が残っていて、DB NORIとがっちり握手。「俺達やったんだな。」という気持ちが、その握手に込められているのだ。そう、走ったんだ、あのTTコースをレースと同じコンディションの中で!! 一生忘れる事が出来ない思い出だ。こんなに自分が感動するなんて、来る前はとりあえずマン島に辿り着けるかで必死だったため、何にも考えていなかった!単純にクローズドコースを走るだけでこれだけ感動するんだから、レースなんて出て完走するとどれだけの達成感が得られるんだろう。参加者もみんな気が昂ぶっている様で、不思議な一体感さえ感じる。目が会う度に笑顔をかわし、楽しかったなぁーと会話を交わす。マン島のマジック。ただイベントに参加するだけのものではない。そこにいる人々が優しいのだ。いや、マン島に来るとみんな優しくなれるのかも知れない。 |
![]() その後グランドスタンドで、DB NORIの友人で同じくゴルディ乗りのつとむさんと待ち合わせる事に。グランドスタンドで紅茶をすすりながら、つとむさんの登場を待っていると風が冷たくなってきた。昼間、陽が出ていると穏やかで過ごし易いが、日が暮れてくると一気に冷えてくる。マン島滞在中はフリースのジャケットにライダースジャケットかワックスコットンジャケットの組み合わせだった。まだ8月下旬だって言うのに! つとむさんファミリーと一緒にメシでも食おうと、ダグラスの海辺まで下りてインド料理のレストランに入る。DB NORIのゴルディはライトの点灯に不安があるため、早めに切り上げた方がいいのでは?とDB NORIは言った。が、後から自分で言った事を呪うとも知らず、「折角だからゆっくりしましょう。」と言い放ち、カレーを囲んでわいわいと談笑。楽しい時間は過ぎるのもあっという間で、9時ごろになったため帰途につく事にする。これからポートエリンに荷物を取りに戻り、再びダグラスのキャンプ場へと帰ってくる予定なので、あまり遅くなると体力的にきつい。そして寒い!! |
![]() 少し先に停車用に道路のホワイトラインが窪んでいるのを見つけた。そこへ車体の舵を向け、ブレーキをかけた瞬間に突然体が傾いた!! 「エッ!?」と感じた時には、既に遅し。勢いよくスリップした車体を立て直す間もなく、右側に激しく転倒!!何が起こったか全然整理できないが、転けた事は確か。自分は体を打ち、数メートル手前にマシンが横たわっている。「何てこった!」とすぐに駆け寄り車体を起こそうとした時、ハンドルを掴んだ際にスロットルを少し開けてしまった。まだエンジンがかかっていたため、接地したタイヤが走り出そうとしてしまい、危うく下敷きになる所だった。スロットルワイヤーが曲がっているためか、アクセルが戻らず、回転が上がってしまう!かなり焦ったが、寸での所で何とかキーを切り、やっとの事で車体を起こす。 茫然自失。何だ?何だ?何だ? やるせない憤りが沸き起こってくる。何で今、ここ、マン島で転けなきゃいけないんだ?DB NORIはまだ姿が見えないため、ひょこひょこと歩いて道を戻っていくと百メートルほど離れた所で停車していた。自分が転倒した事を告げ、ひとまずそこまで行く。ダメージを見なければいけないが、見たくない。無傷な訳無いから。 幸い、体には大した傷も無く、芝生上で転倒したため軽い打ち身だけのようだ。しかし、我が愛車には手痛いダメージを受けてしまった。フロントのフェアリングはフレームに付いている太いメインステーそのものがかなり曲がってしまい、元々の3ピースから、トップの1ピースにする際につくったステーも無残にS字型に曲がってしまっている。フェアリング自体もフロントのバブルカバー、スクリーン共に割れ、本体自体にも割れと擦れがある。そしてステーを停める箇所がバキバキになってしまっているのでもう使いものにならないだろう。衝撃でフェアリングがスピードメーター、レブカウンターケーブルに干渉し、ケーブルも2本とも駄目。ステップ関係は問題無し、エキパイが内側に曲がっていたので無理やり引っ張って元に戻す。ハンドルがタンクに当たり、タンクに凹み。気持ちにも凹み。 参った。 と、その時、看板の明かりの下でマシンをチェックしていたDB NORIが「OH,NO!!!!!!」と叫ぶ。何事かと思ったら、タンクの左右に付くBSAエンブレムバッジの片方がどこかで飛んでいってしまったらしい。が、こけた訳じゃないしそれぐらいええやん!と突っ込んだ、内心で。笑 通りがかりの車が停まってくれて、車に積んでやろうかとオファーしてくれたが、一台しか載せられないとの事なので、とても有難かったけれど断った。その代わりにと言うか、ビニールテープを拝借して、ガタガタになっているフェアリングとライトをとりあえず貼り付ける。マルコムに預けた荷物に全て工具が入っているので丸裸も同然だ。そんな時に限ってアクシデントが起きるんだから面白いものだ。一人は転倒してその応急処置を。数メートル先では薄暗い明かりの中、もう一人がライト周りをばらして配線のチェック。何やってんだこんな夜に? ふと上を向くと、雲の切れ間からぽっかりと満月が自分達を見下ろしていた。まん丸で、明るい。こんなに綺麗で、近い月を見たのは久しぶりだ。と、思うと同時にイギリスの辺鄙な島で、ぽつねんと自分が在るのかと思うと無性に自分が小さく感じた。虚しいやら、そして結局はここ、今まさにこの地点にこうやって立っている事を選んだ、そんな生き方を選んだ自分がおかしいやら、不思議な気分だった。 DB NORIのライト周りを直し、ヒューズを取り替えるとライトが点灯したため、先頭をお願いして何とか走り出す。幸い、数回のキックで普通にエンジンがかかったが、走り出すとハンドルもまだ多少ずれており、フェアリングも大きく傾いていて気が散る。振動でフェアリングとステーの壊れたねじ穴から不快な音が聞こえてくる。GPキャブにRRT2のDB NORIには申し訳ないが、ゆっくりと少しずつホテルへ這うように戻る。マルコムのホテルに遂に到着、マシンを駐車。一気に気が抜ける。取り合えず、もう今日は単車で転ける事はない安堵感。荷物を受け取りに行き、事情を軽く説明し、DB NORIのホテルへ戻る。やけ酒を大いに喰らいたい気分だ。が、もう周りのパブは閉店しかけていて、ホテルのバーでさえ怪しい。DB NORIの部屋に戻るとそんな気力も無い事に気付いた。今日は一日、長すぎて、濃すぎる。最高の瞬間と最悪の瞬間を同時に味わった一日。なんてこった。DB NORIの持参したラーメンを今日も慰めにもらい、コーヒーを流し込んで大人しく休む事にする。何て言ったって、転倒してしまったのだ。明日以降に体が痛みだすかもしれない。明日はゴルディクラブのミーティングがあり、相方もロンドンから飛行機で折角来るというのに・・・これからどうしろっていうんだ? 残り旅は公共交通機関かよ!? |
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