MANX GRANG PRIX 2007 --2-- 25/26/Aug/2007




8月25日(土) 3日目 THE DOGS BOLLOCKS NORI!!
 「モー」と「ブフゥー」が混ざった妙な音で目が覚める。変な姿勢で寝ていたので、体が石のようだ。体の感覚が戻るまでしばらくじっとしてから起き上がる。時計を見ると朝7時半。這い出すようにテントから出ると左手にはすぐ柵があり、10頭近い牛がテント近くに集結していた!さっきの変な音は彼らの鳴き声だったのだ。牛達にジロジロと見られながら、よろよろとトイレのあるコテージまで向かう。昨日は暗すぎて全く気づかなかったが、丘を見渡せる最高のロケーションにこのコテージは建っている(マップ ★S)。朝日が庭の緑をより鮮やかに見せ、清々しく生命の力強さに満ち溢れた朝。カチコチだった体の事をしばし忘れてその風景に見入る。何にも考える必要が無い。ただただ雲を見て、その影を丘の上で追う。ふと気づくと、庭には湧き水で手をすすいでいる女性の像があり、それがまた風景とうまく溶け合っていて、その世界の住人のようだった。何だか現実の世知辛さに生きている自分こそ、非現実のもののように感じてくる。

 ここに住んでいるカレンとピーター。ピーターは、TTやGPレースでクラッシュがあった場合にヘリコプターで駆けつけるドクターの一人、そして何と彼自身もスプリントのレーサーであり、敷地には広い作業場がある。そこは納屋のような面持ちで、ドアが無いため中に入って行くとプロならばきっと唸るに違いない大きな工作機械が何台も何台も並んでいる。エンジンを初めとするパーツも雑多ながら大きな棚にぎっしり詰まっていて、まるでショップのようだ。そしてTriumphと単気筒Jawaのスプリントレーサーが誇らしげに停めてあり、部品取りのためなのか、普段の足用なのかユニットのトライアンフも隅の方にちょこんと置かれていた。マン島に住んで医者兼、レーサー。さらにメカニックも自分でこなすピーター。聞く所によるとリビングにある渋い造りのカウンターも自作だそうで、その多才さは羨ましいを通り越して脱帽。

 コテージに行くと、フィディーがコーヒーを淹れていて自分にも勧めてくれた。キッチン&ダイニングの隣の部屋に青い絨毯のリビングがあり、そこのソファに腰掛けてボソボソと話す。何を話したか全く覚えていないけれど、昨日よりも仲良くなれた空気が漂っていて嬉しい。自分もリラックスできているんだろうな。そうだ、ヘッドライトの球を外しておかなければ、とフェアリングのフロントカバーを外そうとしたがそのサイズのヘキサゴンレンチを持ってきていなかった。しかし、ここはスプリントレーサーの家、ガレージを物色しレンチを拝借し無事に球を取り出す。コテージへ戻り、コーヒーとシリアルを腹に流し込む。昨日飲み過ぎたかな、ちょっと気だるい。いや、きっとテントのせいだろうな・・・けれど、こんなにいい所を知る事ができて本当にラッキーだ。ヘッドライトの球切れに感謝しよう。もちろんフィディー達にも!!

 今日からVMCC(ヴィンテージ・モーター・サイクル・クラブ)のイベントが始まり、10時半にSt John's(セント・ジョーンズ)へ集合だそうだ。のんびりしているとあっという間に9時を過ぎ、そろそろ用意を初めた方がいい時間なのにフィディーはまだまだソファーから離れそうに無い。シャロンにいたってはまだ完全にパジャマ。一方のピーターはテキパキと準備をしている。オーナーのカレンが朝の挨拶をしに来てくれた。今日の夜ここでパーティーがあるとの事で、レーサーやメカニック達が集い、マンクスGPを盛り上げてくれる彼らへのお礼のパーティーだそうだ。今日はここでパーティの準備を手伝うとシャロンが言う、だからまだパジャマだったのね。一方のフィディーはやっと重い腰を上げて、準備するのかと思いきやシリアルを食べだし、のんびりカレンと話している!ピーターと自分は定刻に準備完了し、ただぼぉっとフィディーを待つだけ。時間は刻々とせまってくる、そして既に10時。ここ、ソーシャルコテージからセントジョーンズまで絶対30分以上はかかる。10時には出なければいけないのにもう間に合わない!!けどフィディーはまだシリアル食べながら談笑中!おぉーい。そして15分後(一時間ぐらいに感じられた)にようやく出発。忘れちゃいけないのが、フィディーの愛車は最高時速300kmを捻り出すハヤブサだ。朝一全開走行!彼とマシンにとっては朝飯前の事でも、こっちからすると必死で鞭を打っている状態。やっぱりこれだけ速度感が違うと、一緒に走る事が辛くなってくる。体がまだ起ききってないから余計だ。





ピーターのスプリントレーサー2台!! トライアンフとJAWA。
彼の作業場の「一部」おそるべしドクター&レーサー!!



おまけ
尻尾の無い マンクス・キャットではなくマンクス ドッグ!!
というのは嘘で、この犬種はよく尻尾を短くするらしい。



 ハヤブサとのライドでヘトヘトになって11時前にセントジョーンズ(マップ ★BL付近)へ着くとまだまだクラシックバイクが残っていた。今日は1907年当時のレースコース「St.John's Short Course」(一周15マイル)を一周し、その後Kirk Michael(カーク・マイケル)にある小さなモーターサイクル・ミュージアムに再結集するそうだ。戦前のマシンから70年代のマシンまで幅広く並んでいて、出発を待つ20台ほどのエンジンには絶えず火が入っている。オイルの焼ける良い匂いが辺りに漂っていて、バルブの動きを意味も無くじっと観察したりして楽しむ。2台ずつ、約10秒ごとに出発して行き、観客が出発地のパーキングエリア内から出口へ連なっている。出発地の正面に、良い雰囲気のパブ「Farmers Arms」(ファーマーズ アームズ)があるが残念ながら閉店してしまったようで「FOR SALE」の札が掛かっている。

 クラシックバイクの出発を出発地だけではなく、出口付近やパブ側に回ったりといくつかの個所で楽しむ。あまりに多種多様なバイクがあり、これまで見た事無いような車種も多数。折角だから次回は小さな図鑑でも持参していると一度に歴史も楽しめていいだろうな。その中でも深紅のMoto Guzziの美しさは筆舌に難しいほど。夫婦でそれぞれ一台ずつラリーに参加しているようで同時出発したものの、パブの前で男性のマシンがエンスト。周りの観客が手伝って押しがけ、エンジンが掛かると皆歓声と拍手を送り、終始フレンドリーな雰囲気。VMCCのテントにてマンクスGPで行われるイベントプログラムを購入。参加者は皆イエローのゼッケンをフロントに付けているが、その事を尋ねた。こういったラリーに参加するにはあらかじめVMCCのメンバーになり、そこから更にGPの2ヶ月前までに予約・支払いをしていなければいけないとの事。まぁ、ゼッケンをマシンに付けてイベント参加者として走る事も面白そうだけど、一般道を走るだけのイベントならば別に参加しなくていいか、とその時は思った。ラリー参加者を全て見送ってもまだそこには、それを見に来たクラシックバイクが多数。一体何台の旧車がこの小さい島を走り回っているのだろう?TTコースや街へ向かう道を走っていると頻繁にすれ違ったり、追い越し、追い越されたりする。パブやカフェがあればそこにも必ずと言っていいほど数台はクラシックバイクが駐車されている。

 フィディー、ピーターとそのラリーの終点であるKirk Michael(カーク・マイケル)にあるミュージアム「The A.R.E Classic Motorcycle Collection」へ向かう。そして再び全開走行!あー、つ・か・れ・る、、、それに何だかトライアンフのギアチェンジが渋く感じてきたのでオイルを入れてやらねば。A.R.Eはカーク・マイケルのTTコース沿いの小道を入ったところにあるこじんまりしたミュージアム。トライアンフの歴代スピードツインやTR5がずらりと並ぶ。小さな小屋でティーや軽食のパイやホットドッグを販売していたので購入。パーキングスペースの芝生でのんびりとラリー参加者の到着を待つ。続々とマシンがA.R.Eのゲートをくぐって入ってくる。木々に囲まれた芝地と次々に到着するクラシックバイクとのコントラストが綺麗で、思わずニヤニヤしてしまう。こんなイベントが毎日のようにあるのはマンクスGPならではなのだろう。一通り参加者が到着するとアナウンスが入った。「誰かTRIUMPH用のキックペダルのスペアを持ってる方ー、おられませんかー?」「誰かキャブレターのスライドのスペアを持ってる方ー?」「BSA用のサイドスタンドのスペアを持ってる方ー?」などとこの島に来て、落としたり故障した部品をメンバー同士が助け合っているようだ。中にはどうでもいいような部品もあって、笑いを誘っていた。

 今日のこれからの予定。夕方からはプラクティスがあり、夜にはソーシャルコテージでパーティーがある。そしてBSA GOLD STARを「マン島で走らせてやりたい。」という理由で日本から送ってしまった日本人、Noriさん、通称(?)「THE DOGS BOLLOCKS NORI」がマン島へ到着するので、どこかでお会いしたいと思っていた。そしてロンドンからの旅で、この時点で愛車の走行距離が350mile (約560km)になっていたため、オイルの量などを念のためチェックしなければいけない。それにヘッドライトの球も手に入れなければ。*ちなみに「DOGS BOLLOCK」(ドッグス・ボロックス)は直訳すると「犬の金タ○」となってしまうが、実はほめ言葉で「Great!!」よりもすごい、いや、かなりすごい!という感じになる。彼、Noriさんは英国のBSA GOLD STARのオーナーズクラブ・ミーティングにこれまで数回参加し、さらに今回の「情熱の塊」による暴挙(?)によって、あるクラブメンバーに「DOGS BOLLOCKS!!」と言わせしめた事から、ここではDOGS BOLLOCKS NORI、略して「DB NORI」と呼ばせていただく事にする。また、Noriさん自身よりエッセイ内で「さん」付けしない方が場面がくずれなくて楽しいだろう、と言伝をいただいたので敢えて敬語は使わずに書かせていただく。Cheers, mate!

 フィディー、ピーターとここで別れる事にする。彼らはこれから友達に会いに行くそうで、誘ってもらったが整備もしたいし予定もある。それにハヤブサとの高速ランデブーはもうごちそうさまです・・・カーク・マイケルを出発し、セント・ジョーンズに戻り、ダグラスまではA1で一本。約40分ほどの快適な帰り道。マウンテンセクションのダイナミックな景色と違い、こちらは木々に囲まれた道で所々に住宅が並ぶ。途中、ダグラスとCrosby(クロスビー)の間にあるキャンプサイトに寄って、設備を確かめる。一ヶ所のキャンプサイトにとどまるよりも、移動した方が違う雰囲気を楽しめるかと考えていた。





残念ながら閉店してしまった様子のFarmers Arms。マンクスGPやTTの時だけでも臨時オープンしてくれればいいのに。
ラリーのスタート風景。左のオレンジのスタッフがスタートの旗を降ろす。




1935年製のエクセルシャー・マンクスマン 冊子によるとオーナーは2004年にバラバラで入手し、数年かけてレストアしたそう!
親子で走るノートンはこれもまた、30年代のインターナショナル。




様々な名車のエンジンに火が入る所も楽しめる。
旧車のエンジンの造形はどれだけ見ていても飽きない魅力がある。




A.R.Eのミュージアムに年代順に並ぶトライアンフ・スピードツイン。
トップブリッジの花は「Lucky Heather」(ラッキーヘザー)。マン島の丘を紫に染めているのはこの花。お守りとして付ける乗り手もちらほら。




1930年代後期 Vincent Series A Rapide 「配管工の悪夢」という有名なニックネームはこのモデルの複雑なオイルラインから命名された。
1947年 Norton 40M 350cc。ビッグヘッド搭載、プランジャーフレーム。




NORTON フェザーベッドフレーム仕様の50年代のインターナショナルか。
1927年のScott Flying Squirrel(空飛ぶ リス) (写真下)のフロントにいるリス。英国車の洒落心。




スコット・水冷500cc 2ストの1927年製のマシンは80(120km強)マイル近いトップスピードを誇る。
1925年のNeracar(ネラカー)は「Near a car」とデザインに携わった「Neracher」の2つより生まれた車名だそう。風変わりな一応バイク?



 ダグラスのグランドスタンドへ戻ってくると、キャンプサイト(パドック)への入り口に係員らしき人間が立っていて案の定、停められたが「レーサーの友達が◎※□☆△・・・」ともごもご言うと「ここに入る時は通行証代わりのステッカーを貼っとけよー。」とだけ言われて通してくれた。ふぅ。我が家(テント)に戻ってくると取り合えず一休み、する間もなくグランドスタンド裏にあるいくつかの出張パーツショップへ足を向ける。まずはギアオイルを購入。エンジンオイルもシングルグレードから色々と揃っている。レーサーのためのストールだからヘッドライトの球は無いかもな・・・と思ったがチャレンジし、一店目は玉砕。二店目も×。最後の頼みの3件目もでっぷり太った大将に「ないない、ないねー。」とあっさり切り捨てられ途方に暮れかかったが、隣の作業スペースから来たメカニックが話を聞いてくれた。ボックスに紛れこんでるはずと、でっぷり大将に伝えてくれた。渋々探してくれると、、、あるじゃないか!助かったーと安堵と共に、スペアを買っておこうともう一つ出してもらう。「もう一個いるんなら仕舞う前に言ってくれよな。」何て冗談を言われつつ球を手に入れた。2つあれば大丈夫だろう、よかったよかった。そして、英国インチサイズのヘキサゴンレンチも別のショップで無事に購入。マンクスGPのパドックはレーサーにとっても、また旅をするバイカーにとってもよき味方だ!!

 テントに戻り整備を始める。シリンダーベースからオイル漏れがあるため、持参しているオイルを600mlほど加える事になった。このままじゃ10日も旅をしてると持参した1,5リットルじゃ足りないかもな・・・そしてギアオイルを足し、ライトを換えにかかる。フェアリングとライトがぐらぐらのため、テープでぐるぐるに固定、そして球を換えようとして驚愕。同じ型式だが、3つ爪の位置が微妙に合わない。もう一つを見てみるとその爪さえついていない!!同じ型式だが、車種でその爪部分が違うようだ。なんでそんな有難い事をしてくれるんだろう、まったく。全部汎用にしてくれよ、と思いつつ何とか3つ爪のうち2つがはめ込めたので、それで良しとする。無事にライトを着け終わり、タンク元に戻そうと掴んだ時、妙な感触が手に伝わる。見てみるとタンク内側の塗装がべろべろに剥がれてきているじゃないか!「???」と思った直後、ガソリンが漏れている事に気づいた。タンク上部の前端の溶接部から漏れているようだ。事故修理後、これまでとは違う場所にガソリンの圧抜きのホースが差し込まれていた事が、タンクをバンドで固定する際にその個所に圧力をかけ、今回の長距離の振動でそこにクラックが入ってしまったようだった。幸い、漏れる個所が上部にあるため、ガソリンはある程度までは入れられる。そして、古くから伝わる技、「チューインガム」を半信半疑ではあるけれど、無いよりはましかと思い付けておく。まさか実際にする事になるとは!

 その後一息ついて、DB NORIに連絡を取ってみる。国際電話対応の日本の携帯のようで日本の国番号をナンバーに足すと普通にコールがつながる。そういえば、自分の携帯電話のプリペイドの残高が少ない事を思い出し、話す内容を整理してからかけ直そうと一度切ると、すぐに電話がかかってきた。彼は無事にゴールドスターオーナーズクラブの面々とマン島上陸を果たし、プラクティスはHillberry(ヒルベリー)で見るとの事。その後突然、話の途中で電話が切れてしまった。電波が悪いのかと思いかけ直すがつながらない。不思議に思っているとある事に気が付いた。同じマン島にいるとはいえ、相手が日本の携帯のためそれは国際電話となってしまう。向こうからのコールを受けるだけでもこちらにもチャージされてしまうのだ。会話が切れてしまったのはこちらのプリペイドがゼロになってしまったからだった。時刻は5時を回っていて、6時にはRoadがクローズドされてしまう。急ぎ支度をして出発。まずはガソリンスタンドへ向かう。携帯電話へのプリペイドは電話会社、自分の場合はボーダフォンのカードで行う。ガソリンスタンドや、大きなスーパー、街のコンビニでそのカードを使い、値段分のチャージを行うシステムだ。スタンドへ行き、カードを見せるとこんなもの見た事が無いと言う。電波のネットワークがこちらでは「Manx Telecom」という会社のため、ボーダフォンのカードは全く役に立たないようだ。仕方なく、駄目もとでマンクス・テレコムの10ポンド分のカードを購入し、銀の部分をスクラッチして指定された番号へかける。しかし、元々がボーダフォンのため使用不可!10ポンド捨てる事になってしまった。それに携帯が使えない・・・

 とにかく、ヒルベリーへ向かう事にする。もたもたしているとコースがクローズドされてしまう。ヒルベリーはダグラスからマウンテンセクションへ少し入った所にある地点でとても見通しがいい。丁度右カーブの外側が少し高台になっていて、レーサーがなだらかな下りの直線を加速、手前からシフトダウン、そしてカーブを抜けていく一連の流れを楽しむ事ができる。良い場所にはきちんと観客席が造られていて、そこはきっちり有料。わざわざそこで見なくても十分堪能できそうなので、適当に場所を見つけて確保。道路がクローズドされる前に何とかDB NORIがやって来ないかと期待したが、午後6時になり敢え無く「ROAD CLOSED」の札が掛かる。今日ここで会えないのは残念だが、また明日もあるさ、と気を取り直す。しばらくすると道路をチェックする車両が通り、いよいよプラクティスが開始となる。ダグラスを出発し、この地点を通り過ぎるには10分以上あるのでそれまで周りのバイク乗りと会話。ここでは日本の英車ショップ「ALD GATE」のスタッフと親交が深い英国人と会った。んー、世界は狭い。マンクスGPのパンフレットには全クラスの出場者、車種とナンバーが掲載されているので、今目の前を通ったマシンを逐一チェックできる事も楽しい。と、その時 ヒルベリーにつながる裏道からパーキングスペースに入る単気筒の音が響いて来た!アクセルを絶えず煽っているため、これはGPキャブ装着のゴールドスターに違いないと、その場へ飛んで行くとやはりそうだった!このマン島での出会いが嬉しくて、DB NORIとがっちりと握手。積もる話もあるが、まずは紅茶を買って、プラクティスを共に楽しむ。

 この後、彼が宿泊している南西のエリア「Port Erin」(ポート・エリン)に戻り、ゴールドスター・オーナーズクラブ(以下 GSOC)の集まりに顔を出すという。ヒルベリーから今晩パーティーがあるソーシャルコテージまではとても近い。ここからクレグニーバーへ向かい、そこから小道を辿っていくとコテージの前に出る事ができる。が、まだ時間が早い。南西のポートエリンまで行って帰ってくるのも遠いか、と思ったが、折角だから一緒に走ろう!とポートエリン行き決定。DB NORIは同じクラブのメンバー、ブライアンと来ていたので彼と3人でポートエリンへ。このブライアン、ロンドン郊外在住のBusy Bee Cafe Clubメンバーなので顔は以前から知っていたが、マン島で再会して一緒に走る事になるとは。聞くと「Onchan」にホームステイしているそうだ。Onchanは「おんちゃん」でなく「オンカン」だとここで勉強。

 道路の閉鎖が解除されるのを待ち、8時過ぎに出発。ヒルベリーからダグラス、そして緩やかなアップダウンのあるA5を駆け抜ける。Ballasalla(バラサラ)のパブがあるT字路を左折しA5をそのままコンティニュー、Castletown(キャッスルタウン)へと続く。そこから西端のポートエリンまでの道のりは格別。途中、3kmほどの短い間だが海沿いの道を走る事になるからだ。キャッスルタウンを抜けた後、再び住宅がまばらになり、草原が広がってくるようになる。そして短い登りを越えると、いきなりアイリッシュ海が眼前に広がる。それまでの草の香りから、潮の香りへと突如として変わる。まだ夕日が残っていて海の色が深い。そんな景色を楽しんでいると走行距離が驚くほどに伸びている事に気づく。一日に平均100kmは軽く走っているようだが全く苦にならない。黙々と走るのではなく、様々な景色があり、数々の名車と頻繁にすれ違う喜びが「距離」という感覚を鈍らせているようだ。

 ポートエリンのホテル「Cherry Orchard」(チェリー・オーチャード)に到着。ホテルのパブ・レストランでGSOCのメンバーと再会!!春のストラトフォード、夏のマロリーパークでのイベントで会った面々と挨拶を交わす。何の話からかフェリーの話題になったため、その代金の高さに不平を言うと横からブライアンが「俺は2週間前に予約して、往復で80ポンドだった。」と自慢げに答えた。そんなバカな話があるか。自分は2ヶ月前に予約して往復で180ポンドも払ってるのに!! かなり前から予約していて安いのは合点がいくが何故ギリギリの方が安いのだ!? するとあるベテラン・メンバーが教えてくれた、「ある期間は予約が殺到するし、みんな自分の都合の良い日に帰りたいから高いんだ。ギリギリだと日にちや時間帯が大分制限されてくるから席を安くして売ろうとするんだ。」と。なるほど、フェリー会社の賢い売り方、と言う訳だ。ちなみにブライアンはいつもギリギリを狙うそうだ。もし予定が合わなければまた来年、と言った具合に。ちなみに現在(2007年9月)に来年のフェリーを予約すると何と往復20ポンド。そりゃ一年先の予定は中々組めないとはいえ、それは安すぎるんじゃないの!いや、それがオフシーズン時の普通の値段なのかもしれない・・・2杯ほどビールを引っ掛けた時には時刻10時過ぎ。そろそろソーシャルコテージへ行こうとするとブライアンが同行したいと言うので快諾。先ほどの道も夜になると、気をつけなければいけない。景色の移り変わりにも気づかないほど街灯が少ないからだ。特にソーシャルコテージへ行く山道は狭く、曲がりくねっているために2度目とはいえ肝を冷やす。

 無事に到着し、敷地に入っていくと人々の気配がある。ガレージに電灯がともされ、簡易の大きなテントがビールの樽用に建てられている。無駄に明るくし過ぎず、庭にはキャンドルが灯されているぐらいで、とても落ち着ける。その演出も、自然に囲まれた場所ならではのもてなしの一部なのだろう。カレンに挨拶をしに行くと、ぐぇっとなるほどきつくハグして歓迎してくれた。外では食事が振舞われていて、英国料理ソーセージ&マッシュ(ポテト)が食べ放題!! 夜風の冷たさと相まって焚き火の温もりがほっとさせてくれる。ビールは大胆にも樽が2つ用意されていて、自分でコックをひねってサーブする。最初コックが閉まるポイントが分からず、ジャバジャバーと地面にビールを叩きつけてしまった。一つはマン島産の地ビール「Okells」(オケル)、飲みやすいエールビール。もう一種はおそらくラガーだったかもしれないが折角なのでオケルをなみなみといただく。ガツガツとソーセージ&マッシュ、ガブガブとエールビールを飲んでるとそろそろ眠たくなってきた。スプリントレーサー兼ドクターのピーターとも少し話せたし、そろそろお暇しよう。ブライアンとオンカンまで走り、寝床へ向かう。この時間になるとさすがにゲートの見張りもいないだろうと思ったが、いるではないか!何て言い訳しようかと思っていたが、特に何を言われる事も無く通してくれた。レースが近いから警備をきちんとしているのだろう。テントに帰るとすでに午前2時。速攻で寝袋に潜り込み、あっという間に眠りに落ちる。今日も長い一日だった。それはそうと携帯電話どうしよう・・・





The Dogs Bollocks Nori on his Goldie!!




公道が閉め切られ、レースコースとなる。それにしても恐ろしい速さだ・・・普通の道路なのに!
レーサーの平均年齢も高ければ、観客の平均年齢も高い!?




パーティー会場のビール樽!! ワイルド且つ贅沢な経験!?



8月26日(日) 4日目 キャッスルタウン ホテル泊
 パドック内のレースマシンのけたたましい「騒音」を物ともせず、黙々と午前10時まで惰眠をむさぼった。のそのそとテントから出て、あの生ぬるいシャワーを覚悟して浴びに行ったが使用のピークはとっくに過ぎていたため暖かくて快適そのもの。一気に眠気が吹っ飛んで、その「無料」シャワーに感謝する。朝食は延々とストーブを炙るのも面倒くさくて、グランドスタンド裏にあるティーストールでバーガーとティーを買って済ませる。この調子じゃ、持ってきた包丁や調理用のオイルは使わないなぁーとしみじみ実感。さて、今日はVMCCの集まりがキャッスルタウンであるのでそこへ向かう事にする。もう4日目ともなるとマン島の地理感覚がついてくる。(まだTTコースを一周していないけれど・・・)道中では、VMCCのゼッケンをつけたマシンを何台も追い抜いた。そう言えば今日のラリーはダグラスの港が出発地点だったな。昨日は素通りしたキャッスルタウンの街に入っていく、その街名の通りCastle Rushen(ラッシェン城)を中心にこじんまりまとまった城下町で中世の時代はこの地がマン島の首都だった事もあるそうだ。VMCCのスタッフの指示に従い、城壁に沿った狭い登り道を行くと海が開けた場所に駐車スペースがある。そこはVMCCメンバー以外のマシン用の場所、とはいえここだけでも100台以上はゆうにクラシックが集まっている。その駐車場のクラシックを見て回っている時、突然「Hiro−−−−!」と声をかけられた。あれ??オランダにトライアンフオーナーズクラブと2005年に行った際、現地で会ったオランダ人ROCKER Gelt(ゲルト)ではないか!! 何て事だ。こんな再会もあるなんて、マンクスGP恐ろしや。聞くと海に面した西の街「Peel」(ピール)近くのキャンプサイトに滞在しているそうだ。ピールはロンドンの知人からもいい場所だと聞いていたので、そこへテントを引越しさせるのもいいなと思う。 オランダエッセイはこちらをクリック。

 そしてメインの広場に進んでいくとバイクバイク、人ヒトひと!! ぎっしり詰まっていて祭りのようだ。所狭しと旧車が並べられていて、更にそれを見る人々でごった返している。これはDB NORIを見つける事も難しそうだなーと思った矢先、あるバイクの写真を撮っていると、同じようなポーズですぐ斜め前で写真を撮っている見慣れたライダースジャケットが!DB NORIを発見。偶然にも再会し、バイクを一緒に見て回る。駐車場の方には小さな教会らしきものがあって、開放されていたので少し観光。「The Old Grammar School」という建物で、教会、そして学校としても使われた建物で増改築されているが何百年も歴史があるそうだ。

 DB NORIと島内での予定を話していると、彼はかなり事前にVMCCのラリー参加を申し込み、マン島は「観光」では無く「走りまくる」との事。早速今日のラリーから参加したそうだ。明日はレース後のクローズドされたコースをパレードするらしく、最初はラリーに興味が無かったがちょっと羨ましくなってきた。スタッフがいるテントで聞いてみると、これからでも登録できるとの事。早速参加させてもらうようにお願いする。参加費が70ポンド近くかかり懐具合が痛んだが、折角の機会だ!と自分を信じ込ませ清水の舞台から飛び降りる。参加者がマシンにつけている黄色いゼッケンや注意書きが入った封筒を渡されると、既に参加者気分になれて嬉しい。

 ばったりフィディーとも再会し、友達のRick Parkington(リック)を紹介してもらう。彼は雑誌クラシック・バイクにメカニック関連の記事を書いているので日本でご存知の方もいるはず。ワックスコットンジャケットにハンチングを被っていて格好の良い井出達。奥さんのAngie(アンジー)もばっちりきまっている。二人してロカビリー好きだそうだ。会話がたまたま携帯電話の事になると、彼らも昔プリペイドがチャージ(トップアップ)出来なくて結局マンクス・テレコムのシムカードを購入した事を聞く。シムカードとは日本では馴染みが無いかもしれないが、簡単に説明すると電話番号用の小さなチップでそれを変えるだけで電話番号、そしてキャッチする電波も自動的に変わる仕組みだ。丁度話していた後ろにコンビニ(こちらではニュース・エージェント)があり、「シムカードあります。」と大きな広告が入り口に貼られてる事に気づき早速シムカードを購入、取り付けてみた。が、反応しない!!「Invalid Simcard」(無効のカード)などと表示されてしまう。アンジーがトライしてくれるがやはり駄目だ。店に行くとスタッフがもう一つ別会社のシムカードを試させてくれたが、それも駄目。チップ裏面の読み込み部のシェイプが違うようだ・・・マン島用に携帯を買う事も頭に入れなければいけない。んー、不便だぞ、田舎街!!

 そんな苦労をしているとDB NORIはGSOCのクラブメンバーと早々に引き上げてしまっていた。今日は夕方からポートエリンのチェリー・オーチャードでGSOCのミーティングがある。フィディーに話すとシャロンと一緒について来るというので、またしてもハヤブサ・ランデブー。昨日通った海沿いの道は、日がまだ高い事もあってキラキラ水面が反射し、穏やかだ。が、その景色を楽しむ余裕もないスピードでぶっ飛ばす。あっという間にホテルへ着いたが、フィディーは気づかず高速で前を通り過ぎていく。追いつけるはずが無いので、少し進んだところでシャロンとフィディーの帰りを待ちホテルへ。ホテルのパブ・レストランの一角はGSOC専用のスペースになっていて、ビュッフェ式の夕食にありつけるようになっていた。きっと他の車種のオーナーズクラブでも同じように集まっているのだろう。英国ではこうしたクラブの活動が活発で数十年の歴史を持っているクラブもざらにあるようだ。きちんとオーガナイズされていて、常識のある大人の集まり。日本でもそういうバイクのつながり方が今後増えていって欲しいものだ。

 DB NORIが彼の友人のDave Street(デイブ・ストリート)と奥さんのJean(ジーン)を紹介してくれた。何でも彼らの愛娘がレースをしていると言う。父・デイブの影響で始めちゃったのよ、とジーンが言うが彼女もサポートを楽しんでいるようだ。今回もその愛娘が3回目のマンクスGPに挑戦するらしく、当然だがパドックに泊まっているそうだ。自分もパドックに潜んでる、と言うと「誰かに言われるまで、そこに居ちゃいなさいよ。」とジーンにも念を押される。席を移動し、今度はNottinghamshire(ノッティンガムシャー)エリアから来たメンバーと話す。ロンドンから離れると日本人はまだまだ案外珍しいようで、それに英車に乗っているから、色々な事を根掘り葉掘り聞かれる。会話の中で「Blimey!」(ブライミー、イギリス英語で「おやおやー。」と言う感じ。)を使うと「おぉ、今、日本人からブライミーが飛び出たぞ。」などと妙に喜ぶ。確かに日本で外国の人が「マジで〜?」何て言うと、面白おかしい感じと一緒なんだろうな。DB NORIがゴルディのある個所の調整について聞くとメンバーも熱くなって「そう、ここをこうしてな、ほら、あぁ、もう絵を描くからノートを出せ。」と促す。DB NORIは折りたたみ式のノートを持っていて、パタパタと蛇腹のように開けるようになっている。「あ、これは危ないぞ。」と直感したが時既に遅し。Notts(ノッツ、ノッティンガムシャーの略)メンバーがパーツのイラストを書き出す。案の定、一ページに収める気は全く無い。一つ歯車を書いたら、大きすぎて隣のページにはみ出す。そうすると大きさをあわせるために、別のパーツも大きく書く、また別のページにはみ出す。無駄にどんどんページを使用していく。「ほら、こことここの噛み合わせが大事でさ。」なんて言いながら無駄な拡大図をまた別のページに描く。DB NORIのノートはパラパラと開いていけるためにドンドン横に長いイラストが出来上がっていく。笑 日本人なら几帳面に、こじんまり収めそうなのに、そういう大まかさ?にイギリスらしさを感じてしまう。

 夜が更けてくると、ホテルお抱えバンドの演奏が始まった。外でタバコを一服二服。DB NORIが言う「ホテルの部屋はシングルで頼んでたんだけど、ベッドが二つあるんだよなー。Hiro泊まれんじゃない?」と。これからダグラスまで帰るのは辛いと思っていたところだったので、これは渡りに船!! 厚かましくも転がり込む事にした。バンドの後はクイズ大会? 音楽イントロあてクイズ、この有名人は誰でしょう?といったものがプリントがテーブルに配られ、Nottsメンバーは皆揃って、真面目に没頭している。「ちょっと、このプリント印刷が荒くて、この有名人の顔が薄いよ!」なんて言ってプリントを取り替えてもらうほど本気。そろそろホテルへ行きますか、と思いきや、DB NORIがメガネを他メンバーへ貸してしまいメンバーがしっかりと使用しているではないか。あぁ、このクイズが終わるまで帰れないのかね、と腹をくくる。クイズ大会終了後、DB NORIが宿泊するホテルへ向かう。ホテル前で愛車から荷物を取り外していると彼が囁く、「なぁ、Hiro、あそこで立っている女の子、日本人じゃない?」バイク三昧のイギリスの外れのこんな小島に、しかも夜11時過ぎに日本人の女性が一人で立っている訳ないだろうー、と半信半疑で「日本人ですかー?」と、バイクを停めている所から向かい側に立っている女性に声をかける。すると「はーい、そうです。」との返事!! 友人が車で迎えに来てくれるのを待っているそうで、バイクとは無関係だがマン島にはもう10回ぐらい来ているとの事。んー、バイクとは無縁でも10回も来る人もいるんだなぁと驚き。ホテル Port Erin Royalはすっきりしたホテルで、部屋は確かに2名用ルーム。ソファーに腰を落ち着けて、コーヒーをすすり、DB NORIが日本から持参したカップラーメンを頂く。チキンラーメンが懐かしくて◎!「人間、悪い奴はいない。」という会話を最後に就寝。ちゃんとした布団はやはり良い。テントは「旅」気分満載だが、風が強いとバタバタテントがはためいて飛ばされやしないかと「布製」の寝床に不安を覚えたりもするのでぬくぬくとベッドで寝られるのは幸せだ。明日はマンクスGPのレース初日であり、レース後のVMCCパレードに参加!! 波乱の5日目に続く・・・





オランダ人ROCKER Gelt (写真右)とその仲間達。彼らのWEB SITEもチェック!!
--Road Rocket Cafe Racer Club--




ノートンのフェザーベッドにヴィンセント・シャドウを載せたサイドカー付きツアラー。
スリムラインのこちらのノートンはアトラスか。ダブルディスク装備でやる気満々!!




GPキャブ2連、モーゴのボアアップキットで武装のTriBSA。
美しいスウェーデンのHusqvarnaは1936年製。オーナーもスウェーデン人だそう。




広場には所狭しと旧車が並ぶ。人ごみで中々進めない!!
籐のボックスから鳩が。この茶目っ気が英国流!?




Old Grammer School




大きな生徒発見!!




GSOCの面々!! 左からマルコム、DB NORI、カリン。
イエローのノートン・コマンドーはGun Kuhn仕様!




味のあるリジットのTriumph TR5。




何気ない場所でも絵になるクラシック。




GSOC・Notts(ノッティンガムシャー)のメンバーと!!



次回は「クローズドコース走行!!そして深夜のアクシデント!」


--マン島エッセイ 第一回--
--マン島エッセイ 第二回--
--マン島エッセイ 第三回--

--マン島エッセイ 第四回--